反張膝変形は脳卒中片麻痺者の立位、歩行時にみられる典型的な変形の1つです。 麻痺の種類ではありませんので、自分で運動出来る能力は患者様により色々と別 れますが、基本的に反張膝変形の起こりやすいタイプとして一見弛緩様麻痺、痙 性麻痺の伸筋優位型に多いと思われます。 一見弛緩様麻痺の場合、麻痺側の足が床面に着いているとき膝が前後方向に不安 定なため、その不安定性を解消するため膝を後方向(重心の落ちる位置を膝関節の前)にもっていくため反張膝変形が起こってきます。 痙性麻痺の伸筋優位型の場合は、足関節(つま先)が下向きに固定されやすくなる(ふくらはぎの筋肉が引っ張られる:下腿三頭筋の痙性)ため、麻痺側の足を 床に着いたときに膝関節は後方向への負担が掛かるのです。 脳卒中を発症し、歩行が自立した後、長年膝に負担(膝を後ろ方向に伸ばして掛 かる力)が掛かることで、麻痺側の足に体重を掛けたときに膝関節が「逆くの字」になる変形です。変形予防をしないまま歩行を続けていくと「逆くの字」はどん どん強くなり、最終的には麻痺側で片足立ちができなくなり歩けなくなります。反張膝変形に対する従来からの下肢装具療法の基本的な考え方は、足首の上方向 (つま先を上に向ける:足関節背屈)への矯正にあります。足首を上方向に向けるということは、麻痺側の足底を床に着いたときにふくらはぎ部分は前方向に押 され膝は「逆くの字」を向きにくいということです。そのため、膝は曲がった状態で立つ、歩くことになります。装具は短下肢装具というものを使用します。膝 下から足底までのもので金属製の支柱に靴が取り付けられているもの(金属支柱付き短下肢装具)と、プラスチック製でふくらはぎの上から足底まで覆われてい る靴べらのような形(シューホーンブレース)をしたものが一般的に処方されます。この装具の足関節の矯正角度は反張膝変形の割合にもよりますが、足先は結 構上向きに設定(背屈5°や7°など)されることが多いため、歩きづらくなったり、反張膝変形が強すぎると金属支柱付き短下肢装具の支柱と靴底の取り付け 部分(あぶみとシャンク)で外れてしまうこともあります。 また、膝関節の上下周辺を覆った装具も処方されます。これは「逆くの字」にな る膝を「逆くの字」にならないように止めるための装具で、膝の関節から上下に伸びた内側、外側の支柱と膝の後側(膝窩部)に回って「逆くの字」を止める役 割をする支持棒があり、太ももとふくらはぎの前面にもバンドがあり3点固定の原理で反張膝変形の防止をします。ただし、この装具は歩行時に膝を伸ばすこと を制限しますのでダイナミックな歩行ができないことと、膝の後部分(膝窩部)に痛みが出る場合があります。



私共の反張膝変形に対する下肢装具療法の考え方は、麻痺側の膝の後方向への抜 けを無理なく、痛みなく防止し、今後も安全にダイナミックな歩行の継続とさら なる反張膝変形の進行予防にあります。 使用する下肢装具は、プラスチック製長下肢装具(継手付)を処方、製作します。 膝上15B程度までの大腿カフ(太股の前面部分に当てるパーツ)、膝下は下腿シ ェル(ふくらはぎを後方から覆うパーツ)、足部には底板がきます。全ての連結 には金属製の調節式継手を用います。 また、補高靴(靴底の高さが左右違う靴)も同時に処方します。上記の装具類を使用しながらリハビリを行っていくのですが、簡単に理屈を説明 してみます。 反張膝変形が軽度な場合で、足首の関節が硬くなく他動的(自分で随意的に動か すことではなく、他人が動かすこと)に動かしたとき上方向にも良く動く場合は、 プラスチック製長下肢装具の足関節を床面において垂直若しくは若干ふくらはぎが前方向に倒れるように設定(足関節底背屈0°〜背屈1°)します。その上で 膝関節の継手角度を若干曲げる方向に設定(膝関節屈曲5°程度)します。この場合、特に補高靴は必要としないか、麻痺側の足の振り出し時につま先の引っか かりがあれば、良い方の靴底に若干の補高(5@〜1B)を行います。 反張膝変形が軽度な場合で、足首の関節が硬く他動的に動かしたとき上方向にい かない場合は、プラスチック製長下肢装具の足継手を足が上方向を向くところの位置(例:足関節背屈ー4°)までもっていき止めます。それだけでは足底を床 に着いたとき膝は後にいきますので、麻痺側の踵のスペースを埋めふくらはぎ部分が床面に対して垂直に立つようにします(補高靴、踵部に底屈位4°の場合、 三角比にて約1.9B)。そうすれば膝は後方向に行かなくなります。その上で、膝継手角度を若干曲げる方向に設定(膝関節屈曲5°程度)します。このままで は、麻痺側の足の振り出し時につま先の引っかかりが起こりやすくなるので、良い方の靴底に補高(2B)を行います。 上述した2つの設定について膝は完全に伸びきる少し手前で止められる(伸展制動)感じになります。しかし、この装具はプラスチックで出来ているため、じわ じわ膝は最後まで伸び、膝は後方向へストレスが掛かることなくカチッと止まります。 反張膝変形が弱い場合を記述しましたが、変形が強くなると上記の考え方で足関 節の継手の設定角度(痛みが出る範囲で強制するのではなく、痛みのないところで矯正)、その時に麻痺側の足が床面に対して垂直に立つようにすること(麻痺 側の踵補高)、膝継手の角度と、良い方の靴底に補高を行い麻痺側の足の振り出しのしやすさや、重心線の落ちる位置を整えることを行えば十分に対応できます。
上へ戻る
Copyright Yokohama Hospital. All rights reserved