痙性麻痺の伸筋優位型は脳卒中片麻痺の典型的な病状の1つであり、自分で運動 出来る能力は麻痺側の足をしっかり伸ばすことが出来ます。逆を返せば足を曲げることが苦手となり、足全体は棒のような感じで、筋肉を触った時にも結構硬く 感じられます。 痙性麻痺の伸筋優位型の歩行は、膝関節をまっすぐ棒のように伸ばした感じで、 安定感があるように見えます。しかし、足首が下方向に向き硬さ(内反尖足)が あり、何も着けずに歩いた場合には、つま先の引っかかりが起こりやすくなるため、身体を斜めに傾けたり、足を振り回すようにして歩きます。 痙性麻痺の伸筋優位型に対する従来からの下肢装具療法は、つま先の引っかかりを防止することが重要と考えられています。そのため処方・製作される装具はプ ラスチック製でふくらはぎの上から足底まで覆われている靴べらのような形(シューホーンブレース)をしたものが一般的に多いと思われます。それも、ふくら はぎ部分が少し前に倒れたような形(足関節軽度背屈位:2°〜3°)のものだと思います。理由として、@足の下方向への硬さを装具の中へ押し込み矯正する。 A膝が後方向へ抜ける(棒のような足なので膝の後方向へストレスが掛かる)のを防止する(将来的な反張膝変形の予防)。などが挙げられます。この装具での 歩行は足の引っかかりは多少、少なくなります。また将来的に反張膝予防のために設定される装具の角度となります。しかし、棒のように固定され安定していた 膝が、足を着いたときにふくらはぎ部分が前に押されるような形になり膝の安定性は返って減少する傾向にあり、歩行スピードが遅い、長い距離を歩けないとい った弊害も出る場合も考えられます。 ふくらはぎ部分が垂直に立ち上がった(足関節底背屈0°)装具もよく処方され ます。この角度でも歩行時の足の引っかかりは減りますが、膝の関節が0°まで 伸びるため将来的には反張膝へ移行するおそれがあります。また、身体を斜めに 傾けたり、足を振り回すようにしての歩行は直りにくい角度設定です。




私共の痙性麻痺の伸筋優位型に対する下肢装具療法の考え方は、足の下方向への 硬さ(内反尖足)を抑えながら、安定した膝の構築と将来的な反張膝変形の予防にあります。 伸筋優位型がそれほど強くなく、装具なしでもある程度歩行できる場合には病状 の予後を予測(転倒しないか。将来、反張膝にならないか)をした上で、短い継手付短下肢装具でいいのか、装具なしでも良いのかを決定する。 伸筋優位型が強い場合は足の下方向への硬さを改善し、将来的に起こりうるであろう反張膝変形の予防を行いながら、、歩行スピードを速め、長い距離を歩ける ようにプラスチック製長下肢装具(継手付)を処方、製作する。膝上15B程度までの大腿カフ(太股の前面部分に当てるパーツ)、膝下は下腿シェル(ふくらは ぎを後方から覆うパーツ)、足部には底板がきます。全ての連結には金属製の調節式継手を用います。また、病状により補高靴(靴底の高さが左右違う靴で痙性 麻痺の伸筋優位型の場合、主に麻痺側の靴底を低く、反対側の良い方の足の靴底を高く設定します)や、麻痺側の足が外に向きやすくなっているため矯正を行う ゴムバンド(ゴム製ツイスター)も用います。 上記の装具類を使用しながらリハビリを行っていくのですが、簡単に理屈を説明 してみます。痙性麻痺の伸筋優位型が強い場合には足首が下を向き硬くなり、膝も棒のように伸びきった感じになります。そのため、麻痺側の足を出すときにつ まずきやすくなったり、麻痺側の足に体重が掛かったときには膝が後方向へ抜ける(棒のような足なので膝の後方向へストレスが掛かる)ような感じになり、将 来的に反張膝へ移行しやすくなるのです。 @足の関節は無理に上向きに矯正するのではなく、ふくらはぎ部分(下腿)が垂 直に立つくらい(足関節底背屈0°)に設定します。もし、下方向への向きが強ければ、痛みなく矯正できるくらいの位置まで足首を上に向けます(足関節底屈 0°〜3°)。 A足首の角度がこのままでは、膝が後方向へ抜ける(棒のような足なので膝の後 方向へストレスが掛かる)ような感じは止まりません。それを止めるために装具 の膝関節部分の継手を少し曲げて(軽度屈曲位)設定します。そのため膝は完全に伸びきる少し手前で止められる(伸展制動)感じになります。しかし、この装 具はプラスチックで出来ているため、じわじわ膝は最後まで伸び、膝は後方向へストレスが掛かることなくカチッと止まります。また、装具の膝関節部分の継手 を少し曲げて止め、歩行訓練を続けることにより、大腿カフと麻痺した足との間で反発(抵抗)が起こり膝周辺の筋肉やお尻の筋肉も強くする筋トレの効果もあ ります。そのため麻痺側の足にもしっかりと体重を掛けて歩くことが出来るようになり、歩行スピードも速く、距離も長く歩くことが出来るようになります。

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